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【VOL.158】ヴォーリズ建築を見て感じたこと

(2010/03/28 鈴木 友則 )
デザインスタジオ バオバブの鈴木です。

3回目の登場ですが、宜しく御願いします。

昨年末、近江八幡を廻ってきました。近江八幡といえばご存知の方もいらっしゃると思いますが、八幡堀は時代劇ロケ地としてもよく使われていますし、江戸情緒の残る町並みも残り、水郷めぐりなども有名な場所です。

加えて知られているのはW.M.ヴォーリズの存在です。一般の方はメンソレータム(現メンターム)の近江兄弟社の創始者の一人という方が馴染み深いかもしれません。またヴォーリズは近江八幡市の名誉市民第1号でもあり、銅像もありました。

ヴォーリズといえば近江八幡を拠点として日本全国に数多くの建築を建てた建築家であり、実業家です。そのヴォーリズが設計した建物が集中して見られるのが近江八幡。市内で現在残されている建物は24棟あり、今でも実際に使われている建物が多く、内部を一般公開されているものは少ないのですが、100年近く前に建ったものも残っています。(外観のみの見学がほとんど)


 ヴォーリズのデザインは基本的にシンプルな洋風でありながら、日本の気候風土に合わせ考えられた空間、耐久性や風通し、日当りなどもよく考え設計していたことでも知られています。ヴォーリズ自身「建物の風格は、人間の人格と同じく、その外見よりもむしろ内容にある」と語り、また「建築家は日常生活のために使用する快適で健康を守るに良い、能率的な建物を熱心に求めている建築主の意を汲む奉仕者となるべきである」という精神により、多くの建物が現在も現役として使われ、残されていることはわたしたちも見倣うべき点だと思います。

中には老朽化が進み、メンテナンスが必要なものも見受けられましたが、壊すのではなく修復したり、転用したりするなどしてヴォーリズ建築を後世に残して行こうという姿勢が町全体からは伝わってきました。

たねやさんの近江八幡日牟禮ヴィレッジのクラブハリエでは特別室としてヴォーリズが手がけた旧忠田邸を補修改築したお部屋でお茶できます。(要予約ですが、唯一、内部空間を堪能できます)


結局、時間の関係もあり、24棟あるうちの20棟見て回りました。見学できなかった建物もあったので次回来る機会に見学したいと思っています。

 話は少しそれますが、日本の住宅の平均寿命は25年〜30年という数字をよく目にします。実際はしっかりメンテして使っていけば少なくとも今の住宅は普通に7080年はもつと思います。また日本では“住宅は一生に一度の買い物”と個人の所有意識が強く個人資産としてバラバラに造られてきたため、集合体として形成された魅力ある町は少ないように思います。本来なら住宅も土地同様に高い資産価値が認められ、海外のように転売することでライフステージに合わせた住み替えがスムーズに行くようになってくれれば、中古市場も活性化し住宅そのものの価値が出てくると思います。住宅地の熟成とともに町全体の価値もあがって行く住宅づくりが出来てくれば、もう少し町並み自体も変わってくると思います。ただ新築の時点で資産価値が減って行く今の日本の社会システムの中では住宅単体としての価値は生まれにくい状況にあることは確かで、建物だけで解決できる問題ではなく、税金の問題も含め、統括的に解決して行くべく課題の一つとなっています。
ここ数年で国交省もフローから良質なストックへと政策の舵を切り始めた一方で、平成20年度の調査によれば現在の日本の総世帯数は約5000万世帯、総住宅数は約5760万戸で空き家率は全国平均13.1%、中でも山梨県は20%を超える空き家率という結果でした。空き家率の低い地域でも10%台で1割を超える住宅は空いていることになっています。既に日本にはストックとしての住宅は多く存在し、活かしきれていない状況にあることはこれでわかると思います。更にこの傾向は増加すると見られています。
従って今後良質なストック社会を築き上げて行くために現在のストックをどう活用できるか考えて行くことが求められます。しかし現実とは裏腹に昨年、施行された長期優良住宅法も現行法規も新築を基準とした法体系となっている点においてまだ不十分であり、現状では初期性能を担保した住宅であって現段階における性能を満たした新築住宅ができただけに留まってしまいます。前述したように今の状況では住宅は単体としての価値は生まれにくい状況にあるし、性能が良くてもその性能自体の評価基準は時代とともに変化するもので、性能自体は劣化していくものなのです。結果的に性能を重視し過ぎた住宅はフローとなる可能性も秘めているため今後の課題でしょう。

 今回近江八幡のヴォーリズの建築群を見て、実際、住んでいる人たちは大変な部分もあると思うし、建て替えたいという気持ちもあったかもしれませんが、ヴォーリズが設計デザインした建築であるという付加価値(つまり社会が認めた文化的価値)が建物を残して住み続けて行きたいと思うモチベーションになっているのだろうなと感じました。
 
今後はやはりデザインを含めた付加価値を持って数値化された性能をバージョンアップできるような住宅が求められ、加えて環境に配慮し、充実したサービスのある安全、安心できるトータルな住環境づくりを行なっていくことが結果として良質なストックとしての住宅を生み、やがてそこに風景が生まれ、景観が生まれてくると考えています。住みやすい環境の良い町が増えて行けば住まい手の選択の幅も増え、住宅に対する意識も次第に変化していくと思います。

自分が設計した建物が一つの風景をつくるキッカケとなってくれればと思いながら、今回はこの辺にて終わりにしたいと思います。

 ヴォーリズの建築に興味が湧いたという方も、見たことがあるという方も一度とはいわず、二度、三度と近江八幡を訪れてみてはいかがでしょうか。

 

次回はアトリエMアーキテクツの松永 務さんです。

 

コメント

鈴木さんの言われるとおりです。
3月19日の日経新聞朝刊に、これからの日本の景観保全には、日本版HOA(HomeOwners Association)の運営が急務だと載っていました。
2010/03/29 10:28 | ロビンズダディ
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