土佐材は、大阪城の築城時に献上され、幕府の御用材としても使われるなど、産地としての歴史は古く、品質も高く評価されています。 四万十川流域は主にヒノキ、中東部地域は、スギの生産が盛んです。 初日は、まず「高知木材センター」で、製材の見学と、屋外利用のための木材熱処理材の説明を受けました。隣の原木市場では、心材が淡いピンクの「嶺北スギ」や、年輪が緻密な銘木「魚梁瀬(ヤナ セ)杉」等の丸太を見学。温暖な高知では木の成長が早いと思っていましたが、山間部はかなり寒く、緻密で強靭な材が多いようです。

その後、内藤廣氏設計の「牧野富太郎記念館」と「JR 高知駅」 の見学。牧野富太郎記念館は、植物のもつ有機的な力の流れを内部の架構システムで表現し、屋根形状は風の流れと周辺環境に配慮し た建築となっています。構造集成材は米松ですが、天井や壁などの内装にはスギ、デッキにはヒノキと県産材をふんだんに使い、変化に富んだ暖かみのある空間となっていました。年月を経ても古さを感じさせない、味わいのある建築でした。またJR 高知駅は「くじらドーム」と呼ばれ、広場と駅をつなぐアーチ状の大屋根が特徴。県産のスギ湾曲集成材と鉄骨をあわせたハイブリッド構造になっています。

2日目は、自然エネルギー利用の町づくりで有名な山あいの町、梼原(ゆすはら)を回りました。梼原は、環境に配慮し、適切な森林管理を行うための森林認証制度= FSC 認証(Forest Stewardship Council /ドイツ)を日本で初めて取得した町です。まずは FSC認証工場となっている「梼原町森林組合」を見学。ここでは、丸太の仕分けから、製材、乾燥、加工、検査まで一貫管理され、高い品質の製材がつくられています。端材や木屑も、パルプや固形燃料の木質ペレットなど、無駄なく活用されています。木造の工場は個人的にはとても好きな空間でした。



午後は町内にある、雲の上ホテル、木橋ミュージアム、梼原町合同庁舎、マルシェ梼原など、一連の隈研吾氏設計の建築を見学。どの建物も県産材が多用されています。梼原町役場は、梼原産のスギを構造や仕上げに活用した、CASBEE・Sランクのサスティナブル建築です。 マルシェ梼原は、特産品販売や宿泊施設の機能を持ち、「茅」の建具が特徴的な外観。移設復元された「ゆすはら座」を見学し、町内散策の後、 雲の上ホテルに泊まり、隣接する温泉を堪能しました。

 3日目は、四万十流域。まずは「四万十ヒノキ」を扱う関西木材の見学。コンパクトな敷地に、整然と積みあげられたヒノキの加工材や丸太は圧巻。製材は次々とグレーディングマシーンを経由して、含水率とヤング係数(強度)の測定結果が印字されていきます。土佐ヒノキ(スギも)は全国平均に比べ、強度区分の高い材が多いようです。



次に大正町の集成材工場へ。ここでは地元産ヒノキで、板材だけでなく小物、家具など、さまざまな楽しい製品をつくっています。地元の小学校では、ここで製作した高さ調整のできる椅子を、1年生全員に与え6年生まで大事に使わせてから、卒業時に持ち帰るそうです。豊かで羨ましい話です。最後の見学は「高知県森林技術センター」。ここでは製材のクリープ、曲げ、接合部の強度、床や壁の構造体の耐力などの各種試験をはじめ、森林資源に関わる様々な研究も行っています。いろいろ質問はつきなかったのですが、フライトの時間が近づいたので、旅はこれにて終了。

土佐材の関連施設や建築の見学はひじょうに興味深かったのですが、実は「カツオの塩タタキ」や栗焼酎など、高知の「食」を堪能できたことも大きな楽しみとなりました。

関係者の皆様には感謝のひとことです。是非皆様も一度土佐へ足を運んでみては如何でしょうか。

●土佐材に関する問合わせ
:土佐材流通促進協議会  E-mail:info@k-kenmoku.com TEL:088-883-6721

■今回の記事は、私が編集長をつとめてきた（社）日本建築家協会の広報誌「Bulletin5月号」に、住宅部会長として書いた記事を転載しています。
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JIA関東甲信越支部・会員向けHP